ウェハープロセスの成膜(膜を成長させる)工程には、方法的に分けると3つある。酸化、CVD、スパッタ(Sputter)工程である。ちなみに後者2つはそのうち出てくるだろうから後回し。
酸化というのは熱酸化工程のことで、熱酸化膜をSiウェハー上に作るものだ。実は、酸化膜という膜をつけるという意味では上に挙げたCVDでもできるのだ。熱酸化という言葉の通り、酸化炉と呼ばれる電気炉で温度を上げて、酸素の混じったガスを流して酸化膜を成長させる。
ところで、補足的に説明すると、熱処理工程としては熱酸化工程のほかに、拡散工程というのがある。これもそのうち説明するが、ウェハーの表面部分に注入したB(ボロン)だとかP(リン)などの不純物をウェハーの内部に拡散させる工程である。
さて、酸化の仕組みは以下の図で説明しよう。

上下に図が分かれているが、まず上から。Si原子の並びがあるが、その上から酸素原子がふらふらきている。それが表面のSi原子と結合するとSiO2という酸化物ができその膜を一般的にシリコン酸化膜という。酸化炉で高温にすることで、ちゃんと共有結合ができるわけだ。で、時間をかければどんどん酸化膜が成長することになる。
下の図を見てみよう。上側の1列はすでに酸化膜ができているので、酸素原子は隙間を通り抜けて、下層の列のSiと反応しなければならない。こうして、時間をかけるとともに、上から順々に酸化膜が厚くなっていくわけだ。
このとき、全く最初やまだ酸化膜が薄い場合には、すぐに酸素原子はSiと反応することができるので、成長速度は「反応律速」である。しばらく時間が経って酸化膜が厚くなってくると、酸素原子がSiウェハーのまだ反応していないSi表面に達するまでに時間がかかるようになるので、成長速度は「拡散律速」なる。
また、最初のSiウェハーの表面を基準にすると2:3ぐらいの割合で酸化膜が成長する。つまり、界面から上に2、下に3ってことだ。だからSiウェハーが割合3だけ酸化膜として食われることになる。これ前回ちょっと出たエッチングで削っちゃうと、この分だけSiウェハーが薄くなるってことだね。これは少し大事なことだから、記憶しておいて頂戴。(比率は逆の3:2だったかもしれない)
酸化の種類としてはウェット(Wet)酸化とドライ(Dry)酸化がある(超ドライ酸化なんてのもあるが、これはマニアックなので、勉強が進んだら各自調べればよい)。ウェット酸化ってのは、実は水を使うんだね。H2Oをガス(水蒸気)として炉の中に流して、水の中の酸素を酸化膜の成長に使う。この特徴は、酸化速度が速いってことだ。だから厚い膜圧が必要な場合にはこの方法を使う。しかし、これは酸化膜中にOH基の水素が取り込まれてしまうことがあるので、膜質としては良くない。成長速度が速いってのも、膜質の悪さに影響する。だから、ゲート酸化膜のような大事な膜には使えない。
一方、ドライ酸化は酸化膜成長に酸素ガスを使う。これは、ウェット酸化の反対で、成長速度は遅いが膜質はよい。だから、膜質、膜厚をシビアにコントロールしなくてはいけないような、薄い酸化膜を作るときにはこの方法を使う。遅い反応スピードのほうが、時間対比で誤差のブレが小さくてすむでしょ。
全体的には、酸化の温度としてはだいたい800℃ぐらいから1100℃ぐらいの温度を使う。酸化の反応速度は、温度が上がると指数関数的に上がるので、その分時間は短くなる。しかし、温度が高いとウェハー自体が反ったり、ゆがんだりするので、温度をノー天気に上げればよいわけではない。もうそれだけで、不良品になったりする。また、ガスの組成配分もいろいろな比率で一回の酸化処理で段階的に微妙に変えている。一般的に使うガスはN2、O2、H2Oといったところ。
酸化工程の酸化プログラムというかシーケンスは、各工場によって微妙に違っていて、それがある意味匠の技になっている。
まあ、とにかく酸化の話を細かく、詳しくするといくらでも技があるので、終わらなくなってしまう。おいおい他にも説明するとは思うが、ちゃんと勉強する人は、ぜひ酸化とか拡散の熱処理関係の専門書で勉強するべし。
次回は、エッチングかな。では、続く。
LSIの工程の数の多さと、使用する薬液の危険さに戸惑いもしましたが、勉強させてもらいます
工程の多さは、覚えようとする意思があれば、そのうち気にならなくなるでしょう。
すみません,質問があります.
熱酸化を行った場合,基板表面だけでなく裏面(デバイスを作る反対の面)もSi02が堆積していってしまうのでしょうか?
もし裏面にSiO2が堆積されている場合,それをはぐ…(っと,言えばいいのでしょうか)取る事はやっているのでしょうか?
申し訳ありません.
ご存知だったら,教えてください.
よろしくお願いします.
はい、当然裏側も堆積していってしまいます。その場合、特に問題がなければそのままほっておきます。しかし、プロセスの説明では触れませんでしたが、最後のPadのプロセスの後にバックグラインダーという工程があって、ウェハーの厚さを100umとか250umとか350umなどという厚さに削ってしまうので、そのときに取れてしまいます。
バックグラインダーはほんとはバックグラインドというのだと思いますが、砥石を使ってぐるぐると削る装置を使い、その装置の総称がバックグラインダーというのでそう呼んでいます。
デバイスの中には、基板の裏側からコンタクトをとって、Gndにしたり、パワー系のデバイスでは電流を流したりとするものもあるので、裏側に膜がついているとまずい場合があります。そういう場合は裏側は削らなければなりません。
でも、実際にウェハーを最後に薄くするのは、後の組立工程でパッケージにつめ、最終的に黒のゲジゲジに出来上がったときの小型化から要求されるものです。そのついでに、最後に余計な膜を全部削ってしまおうというわけです。
しかし、中にはプロセスの途中で裏面についた膜をはがす必要がある場合があります。酸化膜などをつけた場合に、その後加工するのに最初のころはWet Etchを使うことが多いので、その時はジャポンとつけたら当然裏面もEtchingされていまうので問題はありませんが、Dry Etchで加工するプロセスが問題になります。
どんな問題が起こるかというと、裏側に膜がついてでこぼこになったりすると、プロセスルールの厳しい最先端のプロセスなどでは、Photo工程でのマスクあわせがウェハーのわずかな傾きによってうまくできないといったことが起こります(他にもありますが特に弊害が出るのはPhoto工程です)。
実はDry Etchでは裏面の電極と接触している部分にもわずかにEtchingガスが回りこんで、同心円状にエッチングされます。プロセスが終わったあとに見ると、同心円状に色模様ができます。中心部に向かうほどガスの回りこみによる影響が少ないので、Etchingが進まずに膜は厚いまま残っているというすんぽうで、色に変化が出ます。
こんなわけで、最先端の非常に微妙なプロセスなどでは、わざわざ裏面についた膜を取り除くという工程が増えたりしてしまうわけです。
問題になるのはPoly Siでしょう。SiO2はプロセスの順番的にそんなに問題にならないはずです。Alなどのメタルは症状としては問題になる程度かもしれないけれど、残りがPadなどの工程なので、気にしなくても良いというレベルでしょう。
早急なご返答ありがとうございます.
やはり裏面にも出来てしまうのですか.
でも,きちんと削る工程があることは知りませんでした.
ありがとうございました.
比例縮小則(スケーリング則)とは、簡単にいうと、ゲート長(ゲート幅も)を半分にして、ゲート酸化膜の膜厚も半分にして、電源電圧も半分にして、チャネル部分の不純物濃度を倍にすれば、元の大きさのトランジスタとほぼ同じ特性(ドレイン電流)が得られるというものです。
だから、他のすべてのパラメータ(3次元的構造のパラメータ)が1/k倍だったとすると、濃度に関してはk倍が正解です。
詳しくは教科書でも読んでください(買わなくても、図書館にでも行けばあるでしょう)。その理屈が式で分かると思います。でも、感覚的にはゲート酸化膜が薄くなるってことは、チャネル部分の基板濃度をそのままにしておいたら、ゲート直下の反転はしやすくなるだろうなあって分かりますよね(要するに|Vth|が小さくなる)。
まあ、この講座でも触れるかもしれませんが、まだまだ先のことですので。
現在、シリコンウエハを溶液に浸す事でウエハ上に2〜3nm程度シリコン酸化膜を形成使用と考えています。
調べてみたところ、硝酸を120℃程度にして、シリコンを浸すと目的としている、膜厚は得られそうなのですが、危険そうなので、他の方法を考えています。
そこで、お聞きしたいのですが、何かよい方法はありませんでしょうか?あったら教えていただきたいです。
例えば、洗浄工程のSC-1のように過酸化水素水を用いて酸化させる事ができればよいのですが・・・。
よろしくお願いします。
申し訳ありません。
現在、シリコンウエハを溶液に浸す事でウエハ上に2〜3nm程度シリコン酸化膜を形成しようと考えています。
調べてみたところ、硝酸の温度を120℃程度にして、シリコンを浸すと目的の膜厚は得られそうなのですが、危険そうなので、他の方法を考えています。
そこで、お聞きしたいのですが、何かよい方法はありませんでしょうか?あったら教えていただきたいです。
例えば、洗浄工程のSC-1のように過酸化水素水を用いて酸化させる事ができればよいのですが・・・。
よろしくお願いします。
2〜3nmということでしたら、適当な液で試してみるってのも良いかもしれません。
SC-1のNH4OHとH2O2の組み合わせではちょっと膜厚的に足りないかもしれないですね。でも、NH4OHとH2O2の混合比を変えて試してみる価値はあると思います。
また、硝酸ですが、私が若手エンジニアのころは、ウェハーの解析やら調査などで、硝酸なども手作業で使っていました。当然フードの中で作業はしますが、ちゃんと厚い保護手袋とか長靴、ゴム前掛け、ゴーグルなどをつけて気をつけてやれば大丈夫ですよ。
大学などの研究室におられるのでしたら、今後のためにそういう保護防具をそろえておくのも良いかもしれません。
さっそくの御返事ありがとうございました。
SC-1の原理としてはH2O2で酸化、NH4OHでエッチングという、工程ですよね?
NH4OHとH2O2の混合比を変えるというのは、H2O2の濃度を挙げて、酸化レートを挙げると言うことでしょうか?
実際に、実験を行って確認してみます。
少し考えては見たのですが、過酸化水素水と硝酸で構成されるSPM洗浄で酸化はできないのでしょうか?
できるなら、何℃くらいで浴を保つといいのでしょうか?
SPMの知識がなくて、申し訳ありません。
一般的にはSPM洗浄とは洗浄工程(http://semiconductor.seesaa.net/article/124159.html)のところで述べた硫酸加水洗浄のことを言うと思います。
その場合、硫酸加水の場合は普通は80℃ぐらいに保ちます。
SC-1の原理はそのとおりで、パーティクルを取り込んだ酸化膜をエッチングしてしまい、パーティクル除去をするものです。
酸化させるために思いつく溶液としては、熱硝酸、塩酸、硫酸、H2O2などの酸系ですかね。
硫酸加水ももともとは溶液の強い酸化力によって、パーティクル(有機物)ごと酸化してしまって、取り除くという発想でおこなわれたものですから、自然酸化膜もそれなりにできますが、所望の膜厚になるかは分かりません。
溶液に浸して自然酸化膜をつけるとなると、このぐらいしか思いつきませんねえ。
拝見させてもらってます。
wetの酸化工程で酸化膜内にOHが入ると
どのような現象が起きてしまうのでしょうか?
耐圧が低下するとかでしょうか?
御指導お願いします・
製品処理では、最終的に水素置換して膜質向上を行うことで安定した酸化膜を得ています。
回答ありがとうございます。
酸化したて様
よろしいでしょうか?
ここ数ヶ月ピッコロは記事の更新をしていないので、このBlogをチェックするのは1週間に数回程度で、コメントに気がつくのが遅れます。
今回のBPNさんの場合もそうですが、今までも他の方が質問に答えてくださる場合が多くありました。どうぞ、皆さん質問が出ていて気がついたら解答してくださいませ。
しかしながら、できれば自分で調べればわかるようなことはぜひ自分で調べて欲しいと思います。実際の現場でなければわからない、もしくは現場特有のものに関しては大歓迎です。
ピッコロ
はじめましてコンです。
ダメージの入ったSi(例えばインプラ後やドライエッチング後)とダメージのないSiの酸化速度は異なるのでしょうか?
増殖酸化といわれる現象が発生します。
一方のドライエッチですが、シリコン基板表面はエッチングデポにより、酸化されにくい事を経験しています。
自然酸化膜付きのシリコンウエハ小片と表面熱酸化膜(ドライか、ウエットか。解りません)付きのシリコンウエハ小片とを背中に合わせに、均一なプラズマ(ガス:CHF3+Ar)条件で同時プラズマ重合膜をコーティングし、自然酸化膜の方より熱酸化膜の方が厚い重合膜が出来ました。そのため以下の質問をさせ頂きたいです。
質問1
シリコンウエハ表面の@自然酸化膜、Aドライ酸化膜及びBウエット酸化膜の成分及び性質にはどんな違いがありますか。自然酸化膜はドライ酸化膜と、或いはウエット酸化膜と、どちらにもっと近いですか。
質問2
プラズマ重合膜をコーティング時、重合とエッチングは同時進行しているので、一定条件の場合は一定割合の平衡になるはずです。つまり、プラズマ及びサンプル(シリコンウエハ)本身の問題が無ければ、背中に合わせている二つシリコンウエハ小片表面のプラズマ重合膜の膜厚がほぽ同じなるはずです。このときもし、一方のシリコンウエハ小片の酸化膜中にーOH基(或いは他の何か)が存在しているなら、SiO2のSiとO2結合の強さが影響される可能性がありますか。あれば、両小片表面のプラズマ重合とエッチングの平衡度は違うので上の質問の一つ回答になります。
以上、お教えいただけませんか。
全然関係ない話かもしれませんが、
なんでも昔は半導体関係(光起電力系?)でボロンが流行った時期があったらしいのですが、ボロン劣化という現象が起こることが分かった途端、表舞台からボロンが消えていったといいます・・・。聞いた話では劣化が進むと、光変換効率のようなものの減少が著しいみたいです。このボロン劣化なるものを知っていたら、そのメカニズムを教えていただきたいです。
教えてもらいたいことがあります。薄膜をつけたとき、(例えばSiO2膜)膜質の評価はどういう項目において調査したらいいのでしょうか?また、膜質向上のためには何をしたら一般的によくなるのでしょうか?よろしくお願いします。